「プロサッカー選手時代は現在地への助走」社長としての使命感を後押しするのは、負けず嫌い精神と悔いなく生きる覚悟。
AuB(株)
代表取締役
鈴木啓太氏(東京)【後編】

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鈴木啓太社長はプロサッカー選手として、プレッシャーがかかる場面を数多く経験してきました。経営者となりフィールドを変えても、その勝負強さが印象的です。「選手時代の経験は現在にたどり着くまでの助走だった」と考えるようにしていると話す鈴木社長。どのようにして自身を高め、奮い立たせてきたのか。そしてその魂が目指す新たなゴールとは。
チャレンジするすべての人に勇気を与え、強靭なメンタルをもつ社長の思考に迫る連載【鈴木社長のコンソメンタル】後編です。

メンタルを保つための準備と覚悟

マリコロ編集長:連載の後編では、鈴木社長の強靭なメンタル力について伺っていきたいです。プロサッカー選手を16年間続けていらっしゃった中、ここぞという試合で結果を出すため、どのようにメンタルを保ってきたのでしょう。

鈴木:勝負時までにどれほど準備ができているか、それに尽きるのではないでしょうか。そして、覚悟。覚悟とはどれだけやってきたかに集約されます。準備してきたこと以上の結果は出せないので、その時パフォーマンスが出せなかったらそれが実力です。

マリコロ:幼少期からサッカーをされていたそうですが、勝負強さは元々お持ちでしたか。

鈴木:サッカーを始めたのは3歳か4歳の頃です。自分のミスで試合に負けることなども当然ありましたが、そんなときも自分の実力を受け止めていました。また、将来なりたい姿や手に入れたいものがあっての現在だと考え、あまり落ち込むことはありませんでした。悔しい思いもしますが、あくまでも目的へ向けて修正するための通過点なのです。

マリコロ: その考え方はどなたから影響を受けたのですか、性格なのでしょうか。

鈴木: 元々かもしれませんね。負けず嫌いなんです。

欲しいものは絶対に手に入れたいし、目的さえ決まっていればそれは自分の幸せに繋がるはず。不純な動機でなく人のためになっていれば必要な競争だと考え、サッカー選手時代にも競争を好んでいたほどです。

マリコロ: 幼少期に欲しかったものとは、やはりプロサッカー選手になることですか。

鈴木:ワールドカップに出て日本代表として優勝することを目標に掲げていました。キャプテン翼の世界です。キャプテン翼やマラドーナに憧れていましたね。

たかが3回、それが1年で1000回の差に

マリコロ:では “覚悟”ができるまでの練習量とはどれほどなのでしょう。幼少期はどんな練習をされていましたか。

鈴木:休日は午前6時に起き、1時間ほど家の前の壁に向かってボールを蹴っては隣の家の車にぶつけて怒られるレベルからスタートし、小学校の頃には帰宅した午後3時から2時間程度の練習の後に食事。夜7時から2時間また練習するといったスケジュールでした。しかし、練習時間が全てではありません。質の面では、他の選手が10本走るならば、私は11、12本走ると決めていました。腹筋であれば、誰かが20回やるなら絶対に23回やる。

マリコロ:たしかに、負けず嫌いですね。

鈴木:そのプラス3回が1年で1000回の差になる、これは重要なことです。自分は他の選手よりもやっていると自信が持てます。それでも負けることもありますから、さらに練習しなければと励むわけです。

マリコロ:息子もサッカーをやっていますが、明らかに練習が足りないですね。笑

鈴木:練習の量よりも考え方で、サッカーは絶対に上手くなるはずです。運動神経がある程度あったとしても足では手と同様にボールを扱えないので、最初は誰でもそれほど大差なく0.1秒先に動けたら勝てるのです。つまり、運動能力よりも判断するスピードが重要。だって、私がサッカー選手になったぐらいですからね。

マリコロ:いやいやいや!

鈴木: 皆さん“いやいや”と言いますが、人一倍練習したとは思うものの、私より身体能力の高い人は五万といました。彼らでなく私がサッカー選手になれた理由は何かと問われたら、決してサッカーが上手かったからではありません。私が長けていたのは考えることだと思います。できないからこそ懸命に考えるわけですが、その判断力がサッカーにとって重要だということを、知っていたんです。

一度きりの人生、悩む時間はもったいない

マリコロ:プロサッカー選手として試合に臨んだ際はもちろん、現在も社長としてさまざまな責任を背負いプレッシャーがかかるシーンが多いと思いますが、負けず嫌いの鈴木社長でも逃げたくなるような瞬間があるのでしょうか。


鈴木:もちろん、叫び出したくなることもあります。ですが、どこを目指し何のために立ち向かうのか、自分の核や目的さえ定まれば怖くありません。経営者になってからは答えを外に探し、一時は迷いもありました。しかし、目的をクリアにした上でどう生きたいのかを定めたことで、苦しいことも辛いことも、チャンスだと思えるようになったのです。

こんな発言は社長として問題があるかもしれませんが、たかが人生。一度きりで二度はないわけです。ならば、悩んでいる時間がもったいない。もちろん動かせない現実はありますが、それは自分がやってきたことの結果なので受け入れるしかないのです。目の前の課題を解決しようと向き合うことで現在にフォーカスできたら迷わなくなります。何事も真正面から受け止め、逃げずにやるしかない。失敗しても謝ればいいのです。

マリコロ:覚悟を決めて言い訳しないということですね。

鈴木:結局、自分に起きていることの全ては自分の責任ですからね。以前、知り合いの社長から「鈴木さんがスーパースターだから仕方ない、問題は我にありと思うように」と言われました。当初は何を言われたのか理解できませんでしたが、スーパースターにとっては全て宿命だから自分の中で受け止めるべきだということのようです。「自分の人生の主人公は自分。起きた事の責任は全て自分にあるのだから、その物語をうまく書き足していけばいい」という意味だと解釈しています。

社長業こそ使命、プロサッカー選手時代はその助走

マリコロ:鈴木社長にとっては自然な流れだったのかもしれませんが、プロサッカー選手から経営者への転身は苦労の連続だと思いますが、起業するという選択は正解だったと思われますか。

鈴木: サッカー選手時代は今の自分を作るための助走で、この仕事をするために生まれてきたと考えています。

マリコロ:すごすぎます! 取材チームからも歓声が上がりました。

鈴木:いや、そう理解しないと、過去に生きてしまうと思うんです。私は心臓を悪くして引退を決意しましたが、コンディションの良し悪しによって好きなことや夢の舞台から下りなければならなくなる現実を経験し、コンディションが重要であると痛感しました。年配の方や病気になった方が口を揃えて言うように、人間は失って初めて健康がいかに素晴らしいものかを理解します。「サッカー選手として死ぬ」という経験を通し私も疑似体験したので、コンディションを整える重要性を多くの人に広められたらと活動しています。

「明日死ぬとしたら」を考え、必死に生きる

マリコロ:多くの人は挑戦したいと思っても一歩が踏み出せず、ジレンマとの戦いだと思います。そんな方たちへのアドバイスとしてどのような言葉を送りますか。


鈴木:「明日、死ぬとしたら何をしますか」これが全てだと思っています。仮に私が明日死ぬとなれば、家族と幸せな時間を過ごしたいと考え、家族のもとへ行きます。これが人生一番の目的であり、その実現の手段として仕事を位置付けています。仕事で成功したら家族を幸せにできるかもしれない、楽しそうに働いていたら家族は喜んでくれるかもしれない。手段となる仕事を差し引いたときに残るものこそ、その人自身の幸せだと考えています。


マリコロ: 後悔のない人生を送るために、今、何をやるべきかということですよね。


鈴木: はい。人間は100年人生だからいい、もし200年、300年と生きられたら怠惰になって何もやらなくなるでしょう。もし「余命一年」といわれたら、きっとすぐにでもやるべきことを書き出しますよね。人間は幸せになるために生まれてきて、その幸せはそれぞれにある。人生で欲しいものは何か、それぞれが今を考えるべきだと思います。


マリコロ:最後に、鈴木社長が今後目指すステージ、夢を教えてください。


鈴木:私はワールドカップに行くことが本当の夢でしたが、コンディションを崩し未達成に終わりました。私のようにコンディションが理由で夢を逃す人を減らし、日本や世界を元気にしていきたい。その土台となる健康のサポートをすることが私の夢です。また、子どもたちは未来。 私たちが死んでも、子どもたちがこれからの社会を作っていきます。サッカー界への支援も含め、10年先、20年先を作っていけたら良いですね。