プロサッカー選手から起業家へ転身。ゼロからの挑戦を可能にしたのは “腸内細菌”のポテンシャルと母の教え。 AuB(株) 代表取締役 鈴木啓太氏 (東京)【前編】

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浦和レッズや元日本代表としても活躍したプロサッカー選手を引退し、アスリートの腸内細菌を研究するAuBを創業した鈴木啓太社長。起業家への華麗な転身は8年前のことながら、そのベースとなる考えは30年以上前から母の教えによって育まれていました。鈴木社長のゼロからのスタートを後押しするのは、これまで培ってきた強靭な精神力。研究している腸内細菌も心身のコンディションを整える鍵を握っているのでしょうか。
チャレンジするすべての人に勇気を与え、強靭なメンタルをもつ社長の思考に迫る連載【鈴木社長のコンソメンタル】前編では起業に至るまでと“腸の秘密”に迫ります。

きっかけとなった母の教え「うんちを見なさい」

マリコロ編集長:サッカーの世界から起業家の道へと進まれたきっかけを教えてください。

鈴木:2歳の頃から、毎日母に「うんちを見なさい」と言われて育ちました。当時は腸活という言葉もなく、腸にフォーカスされること自体は少なかったと思います。母は調理師資格を持っていましたが、他の家庭と同様に料理を作り家族の健康を守るなかで、自身で見聞きした知識や経験などから自然と“腸”に行きついたのだと思います。そんな母のおかげで、自分でもコンディションや体調管理を気にかけるようになり、プロになってからも冷たい飲み物を避けて体を温めたり、サプリメントを飲んだりしていました。

また、ヘルスケア業界では2000年代以降に技術的発展があり、以前は腸内細菌を調べるために何億もの費用と膨大な時間が費やされていた状況から、短時間・低コストでできるようになり、より多くの研究が行われるようになっていました。新たな細菌の発見やエビデンスが出てくるうちに、特徴的な被験者の腸内細菌を調べると面白いデータが得られると知りました。そこで、サッカー選手としての経験からアスリートの腸内細菌を調べたら面白いのではないかと思い立ち、この世界に入りました。

マリコロ:そのタイミングが、サッカー選手を引退される時期だったのですか。

鈴木:うんちの記録アプリを開発している人がいると聞き、実際に会って話を聞いたのが引退する年の6月のことです。その時点ではまだ引退を決めてはいなかったものの、研究のために会社を作ろうと考えました。ビジネスとしての観点というより、それまでの自分の現体験によって腸内細菌が人々にとって必要だと感じ、それが起業へのきっかけになったのです。

サッカー選手から起業家へ。菌が教えるアスリートの素晴らしさ

マリコロ:そのタイミングでアプリ開発者に出会ったことも運命としか思えないです。鈴木社長がすぐに行動を起こされたのは普段からアンテナを張られていたためでしょうか。

鈴木: 「うんち」と「腸内細菌」というキーワードがとても大きかったですね。サッカー界にも一般的にも腸内細菌のすごさは浸透していませんでしたが、これほど重要なものになぜ他のアスリートは注目しないのだろうかとずっと思っていました。お腹が冷えると筋肉の状態が悪くなるなど、体で感じているはずです。

ちょうどその前後に明治ヨーグルト「R-1」などが流行したこともあって腸内細菌が免疫や花粉症予防に関係していると理解し、アスリートはもちろん、全ての人にとって間違いなく重要だと確信しました。母が「腸が大事だからね」と念仏のように唱え、自分が30年ほど続けてきたことは間違っていなかったのだと、線で繋がったような気がしました。

マリコロ:私も妊娠・出産などを経験してきたなかで体調を崩すこともあり、腸は健康の要だと感じています。

鈴木: 「全ての病気は腸から始まる」とヒポクラテスという古代ギリシアの医師も言っていたように昔の人たちも感覚ではわかっていて、それが近年、科学的にも解明されてきたわけです。

マリコロ: その裏付けをAuBさんがされているのですね。

鈴木: 私たちはパフォーマンスに関わる欠かせない検体と考え、アスリートという特徴的な被験者に絞っていますが、現在は他にも世界中でさまざまな研究が行われ、今後より多くのことが明らかになっていくでしょう。

マリコロ:具体的にどのような競技のアスリートの検体を、どの程度集められたのでしょうか。特に特徴がはっきり出た競技はありましたか。

鈴木:対象は40競技ほどのトップアスリートたちです。最初のプロダクトを開発するまでの4年間で500人、1000検体ほどでしたが、現在1000人を超える被験者から集めた検体数は2200以上にのぼります。どの競技が良いとは言いがたいですが、一般の方と比較するとアスリートの腸内細菌は多様性が高く、たとえば酪酸菌が2倍以上いることがわかっています。その菌は元々人間が体内に持っていて、運動しないと少なくなる特徴があります。一般的には体内の5%ですが、アスリートでは10%、さらにトップクラスのオリンピアンのような選手は20%ほど持っており、特に多く保持しているのは持久系の選手たちだと判明しました。

腸内環境を良くする食べ物は「ない」!?

マリコロ:興味深い研究結果です。運動すると酪酸菌が増えるというお話でしたが、日頃から食べることで基本的な腸内環境が整うものはありますか。

鈴木:実は、腸内環境を良くするためにこれを食べれば良いというものはないのです。

マリコロ:え! ないのですか!

鈴木:多種多様な菌や食物繊維を摂ってくださいということに尽きます。キムチなどの発酵食を食べるのがまず一つ。ヨーグルトもいいですね。乳酸菌やビフィズス菌などさまざまなものがあるので、ぜひ毎日違うヨーグルトを食べてみてください。もう一つ重要なことは、菌を育てること。つまり、体内の菌に餌を与えるのです。そのために必要なのは食物繊維やオリゴ糖なのですが、野菜一つとってもごぼうと人参の食物繊維では別物なんです。会社で考えれば、営業、経理、人事がいて、それぞれが働いてくれないと機能しないのと同じで、それぞれの菌にきちんと報酬を与える必要がある。その報酬にあたる食物繊維が千差万別なので、そのために多くの食品を食べてくださいということです。

マリコロ:なるほど。とはいえ、せっかくですので鈴木社長がパフォーマンスを上げるために日頃よく食べているものがあれば聞いてみたいです。

鈴木:枝豆ですかね。

マリコロ:ビールに枝豆…ですか。

鈴木:アスリートの時はもちろんお酒は飲まなかったですけどね。今のイチ押しはなかなか浮かばないですね。

マリコロ:現役時代に遡るといかがですか。

鈴木:あ、試合前にバナナジュースを飲んでいましたね。バナナ、ミルク、はちみつをミックスし、時々いちごも入れて。試合前の食事に合わせ必ず飲んでいました。自分のためだけでなく後輩の分も作っていましたが、みんなからも好評でした。それが勝負メシ…ならぬ勝負ドリンクですかね。

腸内環境とパフォーマンス最大化

マリコロ: ありがとうございます。腸活の話に戻りますが、やはり腸内環境はサッカー選手としてパフォーマンスを出すのに密接な関係があったと思われますか。

鈴木:アスリート以外の方も同じだと思いますが、実際のところパフォーマンスを上げる唯一の方法は良い仕事を繰り返し行う、反復するということでしょう。サッカーでいえば、繰り返しトレーニングすること。厳しいトレーニングをすると疲労しますが回復します。それが少しずつ改善されていき、結果パフォーマンスが上がるということだと考えています。

どんな職業の方でも、体調の良いときに最もパフォーマンスを発揮できると思いますが、それはあくまで瞬間的なもの。日々積み重ねて良い仕事をすることで、実力になっていくのではないでしょうか。100%の力を出せる状況をどれだけ作り出せるか、これこそがコンディションを整えることでしょう。健康の土台である腸を整えることはコンディションを整えることとイコール、それによりパフォーマンスも上がっていくはずです。

マリコロ:持てる技術を最大化するためにコンディションを整える、そのための腸活ということでしょうか。

鈴木: そうですね。それぞれの人生には目的があります。パフォーマンスを出すことにも目的があると思いますが、 そのために大事なのは健康。そういった意味では、腸内細菌がパフォーマンス向上に繋がっているといえるかもしれませんね。

AuB鈴木社長のコンソメンタル【後編】では、サッカー選手として、また起業家としての成功のカギを握るメンタルのもち方について詳しく紐解いていきます。