金融業界のエリートから一転、農業で起業しシステム化と多様性を軸に地域の社会課題を解決。
(株)サラダボウル
代表取締役
田中進氏 (山梨)

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田中進社長は「農業の新しいカタチ」を創ることを理念に2004年サラダボウルを設立。
農産物の生産や加工、農業経営コンサルティングなどを行っていらっしゃいますが、全国に最先端技術を導入した大規模な園芸施設を設けながら、地域に根差した農業を展開しています。
銀行や保険といった金融業界を突然辞めて踏み出した茨の道。創業期には夜中に呼吸がとまったことも。田中社長の汗と涙の塩(CEO)味ストーリーを伺いました。

リーフレタス「天然水のサラダ」を栽培している山梨県中央市にある園芸施設にて。

農業を外から見たら新しい可能性を感じ、起業へ

マリコロ編集長:田中社長は金融業界で大活躍されていたのに、一転、農業で起業されたのはなぜですか?

田中:金融業界にいたとき企業支援を担当していたのですが、本当にたくさんの経営者を見させてもらってきたんですよね。
例えば、斜陽産業の繊維会社は廃業していくか、潰れていくかがほとんどなんですけど、中にはきらりと光る会社があって。そういう会社は経営者がすごい情熱を持っているんです。「この事業だから伸びる・伸びない」じゃなくて、経営者がどれだけ情熱を傾けるかによって結果が変わる。
そんな会社を見てきて、農業も情熱をもって取り組み、創意工夫を凝らせば結果が変わるんじゃないかと考えたんです。

マリコロ:田中社長はもともと農家のご出身だそうですね。別の業界を見たことで、新しい視点から農業の可能性を感じとられたということでしょうか。

田中:はい。経営者の支援をさせてもらいながら「もっとこうしたらうまくいくかも」って自然と考えていた自分がいたんですよ。目の前の経営者がさまざまな取り組みをしていて、それを農業にオーバーラップさせたら、上手くいくイメージが湧いてきたんです。
それで、どうしても自分で始めてみたくなってしまって。でも、実際に自分でやってみたらそんなに簡単じゃなかったです(笑)。

ストレスから夜中に呼吸が止まって起きることも

同じ大学の先輩後輩です。

マリコロ:土地を借りるのすら苦労されたそうですが、一番きつかった塩(CEO)味な時期といったらいつでしょうか?

田中:きつかったのは、創業のための資金をけっこう用意していたんですけど、それがなくなってからですね。
用意していたお金が2、3年でなくなってからは、スタートした事業でお金を生み出さないといけない状況になって、そこからが本当の創業でした。
その頃は夜中に呼吸が止まって、それに気づいて起きることが頻繁にあったので、虚勢を張っていたけど、実際はすごいストレスを抱えていたんだと思います。

マリコロ:農業って天候や災害に左右される部分があり、努力しても報われないイメージもあります。

独特の語り口調で、ついつい引き込まれ、頷きが多くなってしまいます。

田中:確かに左右はされますけど、個人的には農業ってそこまで無防備ではないと思うんですよね。
自然災害には遭うけど、台風がくるのは数日前からわかります。対処の仕方を知っていれば備えることはできる。これはもう自然災害の範囲に入りません。 他の産業に比べて農業だけ特別大変だということはないからこそ、やり方次第だと思うんです。私たちのトマトやリーフレタスの園芸施設では、最先端技術の導入によって、農作業をする人の配置の最適化や出荷時期、出荷数の予測などが可能になっています。

パートの過半数が60歳以上、新卒採用も毎年

マリコロ:先ほど見せていただいたリーフレタスの大規模施設では、農業がこんなにもシステム化できることと、人と機械がそれぞれ担うべき仕事を分担している光景に衝撃を受けました。また高齢者や障がいのある方が働いていて、採用にも多様性を感じます。

リーフレタスは年間2500万株を生産しているそう。静岡にも新しい施設を建設中なんですって。規模が大きいです!

田中:サラダボウルのミッションは「地域にとって価値ある産業にする」こと。
「地域にこんな仕事があって良かった」と思ってもらうためには、農業の働く環境や働き方を変えないといけませんでした。じゃないと誰も農業をやりたいと思いません。
そこで、私たちがまず取り組んだことが、パートさんが働きやすい環境にすることです。そのためには、重いものを持ち上げないとか、しゃがまない、かがまないなど、できるだけ体への負担を小さくすること。
そして働く時間も、働く人の体力や家庭の事情にできるだけ合わせられるようにしました。

マリコロ:そうすると、年齢や性別に関係なく誰でも働きやすそうですね。

田中:いま働いてくれているパートさんは、50歳以上の人が71.9%で、60歳以上の人が54%です。80歳を超える人も5、6人います。子育て世代の人は子どもに合わせて、高齢の方は自分の体調に合わせて、週に1日から1日2~3時間という短時間でも働けるようになっています。 すると「こういう仕事が地域にあって良かった」と地域の人が喜んでくれ、我々も価値あるものを提供できている実感が湧きます。

マリコロ:また新卒採用も積極的にされていますよね。

田中:毎年募集して1週間から10日間で締め切るんですけど、200人くらいエントリーがあり、80、90人くらい面談して、最終的に4~7名ほど採用しています。
社会的な事変が起こると農業の人気って高まるんですよ。昔でいうとリーマンショックとか、東日本大震災とか、今回のコロナもそうですけど。社会的な大きな事変が起こると「このままでいいのかな?」と自分と向き合う人が増えて、農業をやりたいと考える人がでてきます。
農業をやりたいと考えてくれる若者が増えるのは嬉しいですが、サラダボウルでは、どんなに仕事ができて人柄が優れている人でも、価値観が違うと感じた人は採用を見送ります。一緒にチャレンジをしてくれる同じ価値観を持った人の集まりなんです。

農業には社会課題を解決できる価値がある

マリコロ:システム化と多様性、農業に対するイメージがまるっきり変わりました。地域の方に仕事を生み出すなど社会的意義の高さも感じます。

田中:田舎は多くの地域で同じ課題を抱えています。
その地域で一つの経済や地域社会が構成されないと、社会の仕組みを維持できなくなるかもしれません。人がどんどん減って、行政サービスをどう継続するのか、医療をどう維持するのか、福祉や介護や子どもの教育をどうするのか、たくさんの課題があります。
解決策の近道としては、そこに人が住み、暮らせるよう働く場所を作ること。田舎で仕事を生み出すことは簡単にできることではありませんけどね。

マリコロ:それを実現されているからすごいですよね。

田中:農業はそれだけ多面的な社会課題の一つ一つに密接しているんだと思います。だからこそ、事業そのものが社会に直接的に価値を生み出しやすく、小さいかもしれないけど田舎のハブ機能を果たすことができるんじゃないかと。 自分たちがやっていることが地域に求められることはすごく嬉しいし、それで地域の課題解決の一部を担えるのであれば、自分たちも積極的に関わって一緒にやりたいと考えています。

「地球は小さくなった」こんなに面白い時代はない

マリコロ:安定した生活を捨て、農業で起業されたこと、大きな挑戦だったと思います。若い世代の挑戦心を応援する意味でも、チャレンジする醍醐味や社長職の魅力を教えてください。

田中:私の場合はただ農業をやりたくて始めただけだから、大きな決断をした意識は全くありません。だから「社長にしかできない仕事だ」とかそんな大げさなものはないです。でも、自分が思うことをできる「社長」という仕事は単純に面白いと思いますよ。
365日24時間どう使ってもいい、やりたいことを制限なくできるっていう状況はチャレンジしたから得られたのかもしれません。
ひと昔前は、人がいなければとか、専門的な知識がなければとか、お金がなければとか、たくさんの制限があったけど、今は全く違う環境だと思うんです。以前はお金をかけてHPを作って一生懸命情報発信していたのに、いつしかSNSで無料で発信ができるようになったし、誰でもたくさんの情報を手に入れられる。本当に時代が変わったなと思います。
何でもできる時代ですから、チャレンジしたいと思っている人は、ぜひ行動してみたらいいんじゃないかと思います。

マリコロ:チャンスはあらゆる場所に転がっていますよね。

田中:いまは社会が大きく変わり、過去の常識が常識ではなくなってきています。
スマホの小さな画面があれば翻訳もしてくれるし道案内もしてくれる、世界中どこに行ってもなんとかなります。テクノロジーによって時間も距離も縮まりました。
そういう意味で、本当に“地球が小さく”なったし、こんなに面白い時代はないと思います。
年齢、性別、キャリアに関係なく、目の前にチャンスがめまぐるしく通り過ぎていくので、それをしっかりと掴むチャレンジができるかではないでしょうか。

リーフレタス「天然水のサラダ」は全国130社のスーパーに提供していて、東京都内ですとオーケー、ライフ、イトーヨーカドー、まいばすけっとなどで購入できるそうです!