“昇格ナシなら辞める”と社員につめられ困り果てたことも。社員教育に力を入れ、企業が存在した証を残せる仕事を。
~(株)エクステンド フルコース連載企画vol.2~
代表取締役
沖原厚則氏 (東京)
事業再生、M&A、そして経営承継や事業承継。中小企業の悩みを解決するコンサルタント業に従事する、株式会社エクステンドをフルコースで味わう連載企画。前身のフィナンシャル・インスティテュートの立ち上げから在籍し、2015年からは代表取締役として腕をふるう沖原厚則さんは「社長になるなんて考えてなかった」といいます。
シリーズ#2も、#1に続き沖原社長の汗と涙の塩(CEO)味ストーリーを紹介します。
あり得ないと考えていた会社引き受けが現実に
前身の会社を売却するタスクを担っていた沖原社長でしたが、M&Aを進めていることが社員にバレ、主力社員の退職により業績が一時的に下降。前社長から経営を受け継いでほしいと言われるものの、社長になる気などなかった沖原社長は、銀行から株の買い取り資金が借りられるならと無理な条件を提示します。
ところが、沖原社長がありえないと考えていた株の買い取り資金の話がメガバンクと トントン拍子に進んでしまい、沖原社長は2015年にフィナンシャル・インスティテュートの株を取得し、代表取締役として会社を引き継ぐことに。どうやって経営を進めたのでしょうか。
「心づもりができないまま社長になって、さてどうしようと思いました。ただ、コンサルティングという仕事は企業とのリレーションで成り立っているんですよね。例えば、ものづくりの会社だったら、2代目社長は取引先との関係を一から作っていかなければいけないですが、我々の場合はコンサルタントにお客さまが紐付いているので、引き継ぐことでの影響はなかったんです」
一番キツかったのは社長就任から1年半
コンサルティングという業種ゆえ、引き継ぎの苦労は少なかったという沖原社長。しかし、社長就任からしばらくは苦労したそうです。 「僕は会社のなかで、プレイヤーとしては1番だったんです。だから前社長も僕を頼りにしていました。お客さまに対してチームでコンサルティングをするところもありますが、うちは一人で担当する個人主義。ですから、これまで他のコンサルタントからどうしたらいいかと相談されることはあっても、自分から同僚に積極的にアプローチすることはなかったので困惑しました」
会社として業務は回っているものの、ネット社会により情報・知識が簡単に入手できる時代。今までの左脳型コンサルティングではやがてジリ貧になることが目に見えていました。
みんなもっとできると思っていたのに…
「社長になって立場が変わり、はじめて社員のパフォーマンスを一人一人見ていきました。すると、もうイライラすることばかりです。なにより営業力が全然足りていない。そのマインドの低さを感じるたびにストレスを感じていました」
もっと自分たちが現場で培ったことを営業という形で披露、プッシュしてほしいという沖原社長の思いとは裏腹に、それまでのやり方から脱却できない社員たち。
「でもね、これをやって、と言ってみんながすぐできるなら、社長って苦労しないよなと思い直したんです。コントロールできないことを悩んでも仕方ない、そう考えるようにしました。ただ、コンサルタントというのは、相手の会社に行って指導する仕事なので、コンサルタント自身が自らをどのように表現、クリエイトするべきなのか。それは常に考えてほしいと言い続けています」
突破口は自ら採用したひとりの社員。ひたすら金融機関への営業を繰り返した結果、2018年頃には小さいM&Aの案件を受注できるようになり、金融機関に対する知名度が上がってきたそうです。
「その間にも、いろいろな人を採用して試行錯誤しましたけど、結果が出なくて失敗したことはたくさんありました。人を見誤った経験もしました。売上をあげていた優秀なコンサルタントがいたのですが、彼が昇格を要求してきて、受け入れなければ辞めると言われ困り果てたこともありましたよ。たまたま、新しいM&Aの案件が入ってきて帳尻を合わせることができたので助かりましたが、その話がなかったらだいぶ苦しかったですね」
その後も人材育成の面では苦労しながら、コンサルタントの最低条件として、ただお客さまにアドバイスをするだけではなく、より良い関係性を構築する力やコミュニケーション能力が大切だということを発信し続けています。歌って・踊れて・喋れるような、タレント性にも近い、個の力です。
コロナウイルスの蔓延による不況の時期も、製造業と違い、資産を使って売上を取る業態ではないので、ひとつの踊り場としてじっくり戦略を練ることができたそうです。そんな沖原社長には、経営者として叶えたい目標が生まれました。
地方の中小企業に感じる未来への可能性
「最近は、多くの中小・零細企業が限界生産者として廃業を選択していく中で、それでもそれらの会社が存在した意味をM&Aを通じて見出すことができると考えています。単体で生き残ることがしんどくなってきている状況ではありますが、会社を経営してきた証をしっかり残していくことが我々の使命であることを忘れてはいけないと。」
現地に赴いて企業を訪問し、課題を解決するコンサルティング業だけに、社員30名のエクステンドは東京本社だけでなく大阪、名古屋、福岡、岡山、そして山陰の松江と、多くの拠点を構えています。
「大手のコンサルティング企業から資本提携を持ちかけられたこともあります。実質は買収です。うちのような小さい企業をなぜと尋ねたら、各地で小さなM&Aをたくさん手掛けていることを評価していると。つまり、大手も日本各地での占有率を高めようとしているということなんです。このことから、我々のみならず中小のコンサル会社を攻めているんだろうなということがわかりました」
松江と広島に営業部を置いたことも、地域の中小企業に注目していることも、地方での入札事業に力を入れていきたいという経営者としての決断から生まれた発想です。
社長になるつもりなんてなかったという沖原社長。いまは全国の中小企業、社長たちの可能性を未来へつなげていくため、明確な目標に向け突き進んでいます。次回#3では、そんな沖原社長から見た中小企業が抱える問題と、それらの問題に対峙してきた経験談を紹介します。