借金返済のため高校生で引越しと出会い起業。1千万円の盗難、横領、コロナ禍にもひるまず前を向く。夢は宇宙への引越し!?
(株)スタームービング
代表取締役
山本恒夫 氏 (神奈川)
山本恒夫社長は、高校時代のアルバイトで引越し業界に飛び込み、21歳のとき軽トラック1台でスター引越しセンター(株式会社スタームービング)を立ち上げました。金庫の盗難や信頼するナンバー3の横領、さらにコロナ禍での引越し減などに見舞われるものの、常に前を向き道を切り拓いています。今回は、そんな山本社長の汗と涙の塩(CEO)味ストーリーと、まさに“スターマン”らしい大きなビジョンに迫ります。
高校生で借金を背負い“引っ越し”と出会う
マリコロ編集長:山本社長は21歳で起業をされたのですよね。もともと引越し業との出会いはどのようなものだったのですか。
山本:高校時代のアルバイトがきっかけです。当時自分のバイクがベンツに突っ込むという交通事故を起こしてしまい、300万円の借金を背負ってしまいました。私は5人兄弟で決して裕福な家庭ではなかったので、自分で借金を返済すると決め、日払いで収入も良かった引越しのアルバイトを始めました。
マリコロ:10代にしてすごい覚悟をされたのですね。通常通りの高校生活を送れなかったのではないですか。
山本:そうですね。昼は引越しのバイトをし、夜は居酒屋でバイトし、そのあと高校の友達と遊び、ほとんど寝てなかったですね。高校は単位を取りにいくために行っていたようなものです。
マリコロ:引越し業に携わって、業界の魅力や問題点をどのように感じていたのでしょうか。
山本:最初は報酬の多さが魅力でした。とはいえ、体を動かす楽しさがあったことと、荷物を運んだだけなのに、お客様に感謝されることに喜びを感じました。一方、良いことをやっているのに、働いている人はヒゲ、茶髪で清潔感が欠けている。意義がある事業にもかかわらず、業界には「キツい・キタない」の印象が蔓延していました。また他社を見渡しても、キャラクターは子供ウケを狙った動物ばかり。引越し業の少々“ダサい”印象を変えたいと思い始めました。
マリコロ:それで21歳で起業を決意したのですね。
山本:必死に働いたおかげで、20歳のとき300万円の借金も無事返済できました。その後1年で資金を貯め軽トラ1台を買い、21歳で会社を立ち上げました。
ダサくない!引越し屋はヒーローだ!
マリコロ:軽トラック1台での起業ということですが、何から始められたのですか。
山本:まずはB5のチラシを10万部刷り、マンションなどにポスティングしました。1000件に1件程度問い合わせがあったら、営業経験もないのに見積もりに行き、成約した時に段ボールを届けました。当時社員はいなかったので、仕事が入ったら大学の友人にアルバイトで手伝ってもらっていました。
マリコロ:スタームービングといえばヒーローのキャラクターが特徴ですよね。
山本:はい。実は、友人のふとした一言がきっかけだったのです。引越しで想像するものについて話していたとき「一人ひとりがヒーローだ」というキーワードが出ました。そこでスーパーマンをチラシに印刷するようになり、スタームービングが誕生したようなものです。
マリコロ:面白いですね。事業はどのように拡大されたのですか。
山本:最初はポツポツとしか仕事は取れませんでした。でも大手の傘下には入らないと決めていたので、「安さ・早さ・若さ・清潔感」で勝負するようにしました。そこから1年ごとにトラックを1台ずつ増やし、3年後には社員も雇うようになりました。5年ほど経過した頃、現場から離れるようになりましたかね。経営はおろか、会社員の経験もありません。年上の社員が入ってきて教育の難しさを感じな
がらも、試行錯誤でマネジメントしていきました。
1000万円の窃盗、ナンバー3の横領
マリコロ:創業から24年、振り返って一番の正念場・経営の塩(CEO)味はどのタイミングでしたでしょうか。
山本:東日本大震災の時に、金庫の1000万円を盗まれたことですね。2001年3月でしたが、当時はガソリンスタンドに燃料もない状況で、業界全体がバタバタしていました。事務所のATMに入金しきれない現金1000万円を金庫に入れていたのですが、金庫ごと盗まれてしまいました。震災の影響で防犯カメラも故障しており、結局犯人は見つかりませんでしたね。
マリコロ:犯人が分からずじまいですと、人間不信になりそうですね。
山本:はい。付近を騒がせていた強盗集団の可能性がある一方で、従業員も疑わなくてはならず、かなりモヤモヤとした日々を過ごしました。さらにその後、会社のナンバー3の人間に1000万円を横領される事態にも見舞われましたし。10年間も一緒に働いていた仲間だったので、かなりの人間不信に陥りましたね。ただ、起きてしまったことを嘆いても仕方がないので、自分たちの管理能力を見直すきっかけになったと捉え、できる限り改善を行うようにしました。
コロナで1億円の赤字、すべては経営者次第
マリコロ:コロナ禍でも苦労されたと聞いています。どのような状況でしたか。
山本:学生の引越しや社会人の転勤がなくなり、2019年からの2年間は約1億円の赤字となりました。かなりの正念場でしたね。ただし、外部要因はどうにもならないので、DXの推進やオンライン見積りなど、内部で対策できる施策を進めました。テレワークなどの新しい働き方が広がると、会社にぶら下がる姿勢の社員が自然と淘汰される副次効果もあった気がします。
マリコロ:不安になる社員の方もいらっしゃったと思いますが、そのような時、どのような声掛けをされていたのですか。
山本:航空や飲食などと比べると、自分たちの業界はラッキーだと伝えました。私の思考としては、窃盗やコロナでの経験は辛いのですが、宇宙規模で考えると小さな出来事で、自分たちの管理能力を反省し、改善できることを探すしかないということです。
マリコロ:社長って本当に苦労も塩味も多いなと改めて感じますが、それも含めて“社長職の魅力”をお聞きしたいです。
山本:やはり雇われるよりも、やりがいがあると私は思っています。良くも悪くも、自分でやることがすべて結果につながります。失敗もありますが、前を向いて成功を積み上げていくしかありません。サラリーマンではできなかったことなので、経営してきて良かったと思っています。
マリコロ:新卒採用もされています。採用がますます難しくなってきているなかで、学生たちに引越し業界の魅力をどう伝えていますか。
山本:わたしたちなりの工夫として、新卒で入った社員を広告のポスターに使っています。思い思いのヒーローポーズを撮影し「1年目であっても電車広告やSNS広告に露出できる」ことが一つのアピール材料です。
ちなみに、日本人の引越しは人生で平均5-6回です。お客様の人生における貴重な機会に立ち会わせていただけるやりがいのある仕事だと思っています。少し重い荷物を運んだだけで感謝されますし、こんなにも感動が多い仕事ということを、もっと若い世代に伝えていきたいですね。
ロケットを購入し、月や火星への引越しサポートが夢!
マリコロ:最後に、今後スタームービングが目指す未来や、山本社長が叶えたい夢をお聞かせください。
山本:今は地球温暖化などに加え、人口が100億人を超えると、人類が地球に住めなくなる可能性も出てきます。もしかすると、月や火星に移住する可能性もあるかもしれません。そんな未来がきた時、月や火星への引っ越しの手伝いができたら面白いですね。幹部会議でも、10年後にはロケット10台保有して火星に引っ越しをするなんて話も出ています。
マリコロ:別の意味での「スタームービング」になる可能性もあるかもしれませんね。