社長に必要なのは理屈でなく胆力。事業の土台を築き、学び続けることで次のステージへ挑戦する手順の大切さ。
~(株)エクステンド フルコース連載企画vol.3~
代表取締役
沖原厚則氏 (東京)
中小企業に特化した事業再生・事業承継コンサルティングを行う株式会社エクステンドをフルコースで味わう連載企画。2015年から代表を務める沖原厚則社長は、コンサルタントとして優秀な実績を残してきました。シリーズ#3は、そんな沖原社長から見た、中小企業が抱える問題やそれらに対峙してきた経験談を紹介します。
コンサルティングとは、いわば「会社のお医者さん」。経営者に話を聞き、財務分析を行い、経営にどのような問題があるかを読み解きます。
「私たちは最初に財務状況を3期分見て、財務分析をするところから始めます。“会社はいままでこうでしたよね” という仮説を立て、その仮説と実際に相手から出てくる言葉とのすり合わせをして、今後の方針を提案するのが一般的なやり方です」と沖原社長。 まずは沖原社長がこれまで中小企業の社長と向き合う中で確信した「社長の仕事」についての話を聞いていきます。
会社を大事にしない社長がいる!?
「いまどんなことが課題ですか? と社長に聞いたときのよくある答えが、“資金繰りが回らない”、“社員が働かない”、“役員報酬が増えない”とか、こんな話ばかり。だんだん聞いていると腹がたってくるんです」
経営者として、もっと自分の会社のことを突き詰めて考えてほしいと話します。
「自分の会社ですから当然苦労も背負いますよね。でも不思議で、そうじゃない人も結構いらっしゃる。社員の責任にする、勉強していない、考えていないせいで大事な決断ができず、経営課題を放置するケースも多いです。きちんと経営の原理原則を学ぶことは必要ですし、それは正しい答えを出すためではなく、物事を判断するために必要なことです」
そして決定したことについては「正解のときも間違いのときもある」と沖原社長はあっさりと言います。
「すぐに結果や効果が出ることもあれば、何年も時間がたってから、“あのとき対策をしていて良かったですね”というケースもあります。ですから、社長にまず必要なことは決断力ひいてはリーダーシップを持つことですね」
また、経営について学ぶことで得られるものは、決定するための理屈だけではなく「胆力」だといいます。決して好景気とはいえない現在の経済環境のなかで奮闘してきたものの、いつしか決定することに疲れてしまい、胆力を失う社長さんが意外に多いのだとか。実は、そうならないためのコツがあるそうです。
“胆力”を失わないための経営のコツ
「私も気持ちが切れかかったことがあるからよくわかります。でも経営から逃げることはできないですし、続けていかないといけない。その時のために、ひとつでいいから安定的に収入が出る事業を作っておくことです。それがあるだけで胆力を持続できるかどうかが大きく変わってくるんですよ」
決定することに疲れた社長から、コンサルタントである沖原社長に「決定権を委ねたい」と依頼されることもしばしばあったという。そのような依存体質の経営者とは、きっぱり袂を分かつことにしている一方で、「自分自身も決めたくないなーと思うことはもちろんありますよ」と苦笑いする沖原社長。 「社長の仕事というのは決定することですから、仕方ありません。そこには、結果的に正解もあれば失敗もあります。大事なことは、決定をする行為そのものなのです。そして、決断力を身につけるためにとにかく学び続けることです」
優秀な社長は土台を整えた上で学び続ける
地方の中古車販売会社の若い社長との、印象深い会話をひとつ教えてくれた。創業から20期を迎えるタイミングで財務に関するコンサルティングを依頼されたが、沖原社長の目には特に大きな問題があるように感じられず、なぜいま財務のことを依頼されたのか意図を尋ねたのだという。
「“ちょっとまあ、今日明日どうするという会社でもなくなってきましたので、この一年、踊り場を作ろうと思います”と言われました。つまり、会社の状況を客観的に確認しつつ、勉強する時間をとり、その後どうしていくかを決めたいと」
沖原社長がいう「学び続ける」こととは、ただがむしゃらに本を読み漁り、人の話を聞いてまわるだけではない。あくまでも経営は健全な状態を維持しながら並行して自身の学びを深めることが大事だという。その点でこの社長は「とても賢い」と沖原社長は語る。
客観的な視点を入れて経営を一度見直す。今後の会社の成長のために、しっかりした土台があることを確認し、もしなければ整えた上で次へと進む。そしてそのために自身の成長も同時に図るというわけだ。 「この手順を踏める社長は優秀ですよね。先の事なんてわからないけど、わかろうと努力する。勉強している優秀な社長に共通していることです」
企業がかかりがちな「5つの病気」!?
そんな優秀な社長がいる一方で、負のスパイラルにハマってしまう、いわば「病気」にかかる企業も目にしてきたという沖原社長。
これまでの経験に照らし合わせると、企業が抱える病気は大きく5つに分類することができるそうです。それぞれに名前をつけるとこんな具合。
・分散症候群
・安売り症候群
・財務無策症候群
・前のめり症候群
・お人好し症候群
それぞれの言葉を見て、ドキっとした経営者もいらっしゃるかもしれません。だとしたら危険信号です。 沖原社長が考える「5つの疾病」については、次回シリーズ#4の記事で詳しくご紹介しましょう。