事業承継には早期の決断と準備が吉。親族内承継を勧めるワケとは?!
エクステンド
フルコース連載企画vol.5~
代表取締役
沖原厚則氏
(東京)
中小企業に特化した事業再生・事業承継コンサルティングを行う株式会社エクステンドをフルコースで味わう連載企画。2015年からその代表を務める沖原厚則社長は、コンサルタントとして優秀な業績を残してきました。シリーズ#5は、中小企業が抱える事業承継問題にまつわる沖原社長の経験談を語ります。
沖原社長が、経営コンサルタントという仕事についてから20年。数多くの中堅・中小企業の経営者と関わるなかで、社長の代替わりのシーンに立ち会うこともありました。
「中小企業の場合、親族内承継を選ぶケースが非常に多い。M&Aという選択肢もありますが、社長自身のモチベーションという点で、私のおすすめはやはり親族内承継です。というのも、自分の子供に会社を渡すと決めたら、社長は絶対に子供のために良い会社にしようと頑張ることができるからです」
もちろん、社内の優秀な人物を引き上げることも現実的な判断でしょう。子供が大学進学のために大都市で独り立ちをして、会社のある地元に戻らずにそこで就職するというケースも珍しくありません。
「なにがなんでも子供に継がせることが良い、というわけではありません。しかし世襲にすることで後継者の交代を早く進めることができ、社長自身が企業の成長のためのモチベーションを得ることができるメリットはお伝えしておきたい。立派な業績を残した経営者のなかにも、円滑な事業承継を果たせずに悔いの残る晩年を過ごしたという例は珍しくありません。
いずれにせよ、重要なのは事業をどう引き継ぐのかを早く決めることです。その重要性をよくご存知の社長でも、判断の難しさからつい後回しにしてしまうことはしばしばあり、それにより会社のさらなる発展の基盤を次の世代に引き継ぐことが難しくなってしまうからです」
早めの決断と良い準備がスムースな引き継ぎのコツ
後継者の育成に定石はなく、そして難しいものです。それゆえ事業をどう引き継ぐのかを決めるタイミングを逃しがちでもあります。しかし早いタイミングでどのように事業承継を行うのかを決めておくことは、あらかじめよい準備を行うために必要なことです。
「たとえば子供に会社を継がせるにしても、やはり大学卒業とともに入社させるよりも、一度他の企業でしっかり経験を積んでからのほうが、うまくいくケースが多いように感じています。ファミリービジネス、同族経営という方針がしっかりあるのであれば、それにあった経営を行っていけば良いわけですし、判断を先送りにするのは子供の人生のためにもよくありません」
事業承継は、経営者としての最後の大仕事。円滑な経営のバトンタッチを果たしてこそ、経営者の仕事は全うされる、そう沖原社長は話します。自身の経営のゴールとしてしっかり設定することが求められます。
「M&Aであれば良い買い手を探すのにしっかり時間をかける必要がありますし、親族内承継であれば受け継ぐ子供にしっかり帝王学を学ばせておくべきです。いずれにしても、早く方針を決めることで、ゴールに達するまでにいつ、何をしておかなければならないかが明確になる。いわゆる番頭と呼ばれる会社のなかのナンバーツーの引き継ぎも中小企業では重要ですし、絶対にやっておかないといけないことですが、それも準備の時間が必要だからです」
沖原社長が相談を受けた事例に学ぶ
多くの企業の代替わりに関わってきた沖原社長なりの事業承継への考え方をより深く理解するため、過去に出会った経営者との事業承継についてのやりとりの具体例を聞いてみました。
たとえば、ある地方都市に居をおく、売上高30億円、社員数50名の製造会社の社長からは「もともと世襲制には反対だったが、最近になって息子に継がせたいと思うようになった。世襲制をどう考えるべきか」という問いが投げかけられたそう。
沖原社長はその問いに対し、まず世襲制のメリットを説いたそうです。それは後継者の交代が早く進むこと。ただし、このメリットを活かすためには早い意思決定を行い長期の計画を立てることが必須ですよ、と付け足しました。
「事業承継までに会社をどのような状態にもっていくのか目標を設定し、計画的に事業を推進すること。生産体制、売上高、従業員数の目標を具体的に設定し、現社長がつくりあげたことを明文化します。後継者には教育の一環として経理や総務の業務に関わらせて、会社の状況を客観的に把握させることが必要です」
世襲制であれば、社員からもいずれ社長になる人という目で見られるようになりますから、しっかりと結果を出せる人物であることを、早いうちから社員に見せておくことが重要です。
「利益の出る事業や、可能であれば新事業につけて仕事をさせるのが良いでしょうね。気をつけるべきは、必ず現社長自身の得意分野も任せることです」
後継者の選定における基準は?
西日本で売上高40億円、社員数70名の中古車販売店を展開している社長からは「後継者選びのポイント、バトンタッチの時期、大切にするべきポイント」を尋ねられました。
「まさにこの社長には、ここでお話してきたことをお伝えしました。ご子息がいるなら彼に継がせること、ある程度の時間が必要になること、それにより後継者指名は早く行うこと、といったところがポイントでした」
ありがちな問題としては、二代目社長には初代社長ほどのビジョンがないわりに自信だけはあり、頭でっかちでスタンドプレーに走りがちになるという傾向があると沖原社長。
「ですから他社で学ばせることが大事なんです。最低でも6年から10年は修行させて、雇われる身の大変さをしっかりわからせること。自分の会社に戻してからも決して急ぐことなく育成することですね」 育成のコツとしては、社外顧問のような第三者を有効活用すること。現実の家族である子供に自らの経営哲学を語ることは照れもあってなかなか難しいので、誰かの力を借りることも必要なのだそう。
事業承継を終えた社長のやるべきこと
社長職を退任したら、あとは悠々自適。そう割り切れれば幸せな人生かもしれませんが、どうしても会社が気になってしまうという声は多くあります。
「むしろ事業承継はあたらしい人生の創業なんですよ、と私はよく社長さんに話しています。もう子供に譲ったからと遠慮する必要はありませんし、選ばれた人しかできない社長業を長く務めた経験を役立てないのはもったいない。退任後のもっとも大事な仕事は、新社長を補佐し、会社のさらなる発展を下支えすることです。そしてご自身が社長を離れてからも輝き続けていただく、それが会社のためになる在り方でしょうね」
沖原社長が経営コンサルタントの仕事についてから20年。企業に求められる意識改革は年々増し、昨今ではSDGs理解の必要性を訴えます。次回シリーズ#6の記事では、中小企業におけるSDGsについて詳しくご紹介しましょう。