SDGsはビジネスヒントの宝庫。自社の強みとコネクトさせ、社会課題に沿った持続可能な事業へアップデートを。
エクステンド
フルコース連載企画vol.6~
代表取締役
沖原厚則氏
(東京)

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中小企業に特化した事業再生・事業承継コンサルティングを行う株式会社エクステンド。2015年からその代表を務める沖原厚則社長は、それまではコンサルタントとして優秀な業績を残してきました。シリーズ#6は、いま中小企業に求められるSDGsに対する意識改革について語ります。

2015年に国連持続可能な開発サミットで採択された、17項目からなる「持続可能な開発目標」。しばしば目にするSDGsです。地球環境・社会・経済における課題解決を目指すものであり、企業においては主に環境と社会の課題解決に取り組むことで経済効果を生み出し、持続可能な経営発展が可能です。
そんなSDGsですが、沖原社長は「中小企業におけるSDGsの取り組みこそ、コンサルティングが必要な領域です」と語ります。
「SDGsは世界的に大きなトピックです。しかし我が国の中小企業においては残念ながらあまり意識されていないのが現状です。関東経済産業局が2018年10月に行った調査によると、“SDGsについて全く知らない”と回答した企業はなんと84.2%にものぼりました。
しかし、政府が環境・社会・ガバナンス、すなわちESGに関して、融資においてもESGへの配慮を促していくことがESG金融拡大の鍵と提言しており、ESGファンドはいまビジネスの世界で注目を集めています。また、金融機関もSDGsを事業計画や中期経営計画に組み込む動きが見られるようになっており、中小企業でもSDGsを意識した経営をすべきでしょう」
経営者にとっては、SDGsにおける課題解決が掲げる目標が、地球や環境の保護、人類が住みやすい社会を作り出すために必要な素晴らしいものであるだろう、ということを知ってはいても、自らの会社経営という視点からすれば他人事、と認識されていることは決して珍しくはないでしょう。
しかし、沖原社長に言わせれば「SDGsは決して綺麗事ではなく、企業経営において大きな武器になる、特に中小企業の社長には知っていてほしいこと」なのだそう。
そこで、今回はSDGsを経営に取り入れるメリット、そして実際にどのようにしてSDGsに取り組むのかを聞きました。

SDGsに取り組むと補助金を受けられる?

「さきほど申し上げた通り、金融機関がSDGsに取り組むことはいまのビジネストレンドです。滋賀銀行が日本ではじめてSDGsに貢献する事業を対象要件とする融資商品の取り扱いを開始した事例に続き、SDGsへの貢献をコンセプトにしたファンドがどんどん創設されています。今後、銀行は責任ある投融資元として、投融資先の企業がSDGsに沿った事業活動を行っているかをチェックするようになっていくことは容易に想像できます」
銀行がSDGsを投資・融資の判断基準とするようになっているという傾向に加え、内閣府が推進している「地方創生に向けた自治体SDGs」をはじめとする公的な補助制度は今後も拡充が予想されます。すなわち、SDGsへの取り組みが、企業が補助金を受けられるかどうかに大いに関係してくるわけです。
「実際エクステンドとしても、金融機関と連携してSDGs事業を支援した実績もあります。企業がSDGsに沿った事業活動を行っていると明確に示すには、SDGsが盛り込まれた事業計画書(価値創造計画書)を作成しておく必要があります。今後、社会に求められる企業になり、自社のサスティナビリティを維持するためにも、SDGsを包括した事業計画が不可欠な要素なのです」

中小企業におけるSDGsの認知度はまだ低く、事業としてSDGsに取り組んでいる企業も多くない今こそ、協業他社に先駆けてSDGs経営に乗り出す絶好の機会です。
沖原社長は、エクステンドが金融機関と連携して中小企業にSDGsを取り入れた価値創造のサポート事例を教えてくれました。

あらたな事業に進出するきっかけにSDGsを活用

和歌山県のS社は年商15億円の土木建築業。地元では企業ブランド力があり、アットホームな職場でチームワークが良く、離職率が低い職場環境という特徴のある企業でした。
「特に注文住宅の商品が充実しており、設計力や営業力、デザイン力も高いというたいへん良い企業なのですが、少子高齢化で着工戸数が減少するという市場の問題に直面していました。また施主の若年化と所得の減少により住宅ローンの不採択率が増加、かつ新型コロナウイルス感染症の影響により集客のためのイベントも行えない。ですからそれまでのように新築住宅を多くの顧客に販売するというスキームでは事業運営が難しくなりそうだということが予想されました」
そこで沖原社長は、新築住宅の販売を顧客とのつながりのゴールにするのではなくスタートにするという考え方の転換を提案。顧客への快適な住空間の提供を生涯にわたって行うため、新たに木製家具の製造・販売に取り組み、持続可能な企業への変革をはかりました。
この考えの根にあるのは、SDGsが掲げる目標のうち「8 働きがいも経済成長も」、そして「11 住み続けられるまちづくりを」でした。目標8はさらに細分化された12の項目から成り立ち、その中には「イノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する」という言葉や、「地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進」といったキーワードがありました。
「部屋に合わせてあつらえる家具や、オーダー家具に取り組むことを提案したんです。和歌山県は地震が多い地域ですが、建物に固定する造作家具は地震対策として優れており、地域経済に貢献することができます。また土地が生みだす良質な木材である“紀州材”を使用することで地域の労働を保護し持続的なものにする点での貢献を行うことができます」
SDGsが掲げる目標を詳細に知ることで、企業の強みとコネクトさせ、今後の社会課題に向き合った事業を進めるヒントにした好例と言えるでしょう。

SDGsはビジネスヒントの宝庫

紹介したW社の事例が示しているのは、SDGsが掲げる目標は裏を返せば地球環境や人々の暮らしのペインポイントそのものであるということです。すなわち、それらは今後トレンドになり、一つのマーケットを形成していく可能性の高いビジネスチャンス。
「賢い人が考えた頭でっかちなもの。そんな風にSDGsを捉えている社長も多いのですが、実はビジネスに役立つヒントだらけ。今後の社会がどのように変わっていくのかを知る上でも重要です。しかも、SDGsの目標に沿って事業計画を立てていくことで投融資を受けるチャンスも大きくなります。ぜひビジネスに役立ててほしいですね」。