倒産危機から一転、上場へ導いたのは、たった一度の愛のある叱責。マンション経営のため付加価値を提供する、唯一無二の企業へ。家族のように社員を愛する “ワンワン経営” で、社員に、社会に貢献したい。
(株)ブロードエンタープライズ
代表取締役社長 中西良祐 氏(大阪)

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中西良祐社長は教材販売会社と通信会社での営業経験を経て、26歳で独立。入居日から無料でインターネットを利用できる「B-CUBIC」をはじめ、マンションオーナーを対象とした事業でブロードエンタープライズを創業しました。2021年に上場も果たし、まさに順風満帆、しかしその直前には倒産間際まで追い込まれる危機が。それを救ったのは、中西社長が受けたたった一度の「愛のある叱責」でした。見事方針転換し、現在では業界で唯一“初期費用0円”を実現させていますが、実は社員も人も愛する「ワンワン経営」がポイントなんだそう。「付いてきてくれる人を大切にしたい」と語る中西社長の汗と涙の塩(CEO)味ストーリーと、叶えたい夢に迫ります。

「チャンスがあれば、やらない手はない」好奇心が拓いた起業への道

マリコロ編集長:起業のきっかけを教えていただけますか。

中西社長:26歳で起業しましたが、大学時代から「いつか経営をしたい」と考えていました。とはいえ、具体的な計画があったわけでなく、いつかそうなれたらという程度のものです。大学卒業後は教材販売会社と通信会社で営業を経験し、その後転機が訪れました。転職活動をして難なく受かるつもりでいたら、まさかの不合格。

改めて転職活動をするつもりでしたが、そのとき学生時代の気持ちを思い出したのです。それまでの経験を振り返り、1社目のような業態は難しくとも、2社目のような通信関係であれば起業できるのではとあっさり決めました。大変だったのではないかと聞かれることも多いですが、それほどでもありません。「あかんかったら、また就職すればいい。とにかく一度やってみよう」という気持ちでしたね。

マリコロ: 学生時代はバーなどの飲食店経営に携わられていたそうですが、起業を考えてのことだったのでしょうか。

中西: 特別経営者になりたかったのかといえば、実はそうでもないんです。友人から一緒にやらないかと声をかけられ、好奇心で飛び込みました。目の前に何かしらのチャンスがあれば、やらない手はない。この精神は今も変わりませんね。
ただ振り返ってみると、もし会社員時代に評価され、やりがいのある業務を任せてもらえていたなら独立していなかったかもしれません。当時は、前例がないと言われて行動が制限されたり、意見してもきちんと上長まで伝わらなかったり、会社の仕組みに不信感を募らせていたのです。やりたいことをやりたいようにやるには自分のふんどしでやるしかないのだと悟り、経営者を選びました。

真似できないサービスは、独自の着眼点から奇跡的に生まれた

マリコロ:そのようにして興した現在の事業内容について教えてください。

中西:毎年35万世帯前後の新築物件が供給される一方で人口減少が進み、マンション経営は選ばれるための魅力づくりが大前提です。当社では、マンション経営のキャッシュフローを最大化するため、付加価値のある3つの設備を提供しています。
まず、入居日から無料でインターネットを利用できる「B-CUBIC」は、およそ20万世帯に提供しています。このインターネットを活用し、エントランスのオートロックとインターフォンをIoT化したのが「BRO-LOCK」。入居者のスマートフォンとインターフォンを連携し、外出中に宅配業者が来宅した際も「すぐ戻るので玄関前に置いてください」などと対応可能に。これは社会問題である再配達の解決にも繋がっています。そして、宅内IoTリノベーションサービス「BRO-ROOM」。ベースは家電のIoT化ですが、同時にリノベーションすることでより魅力的な部屋を提供します。

これらのサービスはすべて、初期費用0円。通常はワンルームで200万円程度と言われるオーナーの初期費用負担を、すべて当社が立て替えます。銀行の審査不要で与信枠を取られることもないため、顧客に喜ばれています。スタートから4年ほどですが、現在も業界内で初期費用0円にて提供できるのは当社だけ。この方法は、別業界の販売会社から受けた営業をヒントに、債権流動化によって実現しました。

マリコロ: 債権流動化はなぜ競合他社に真似できないのでしょうか。

中西:上場・未上場で理由は分かれます。未上場企業の場合、金融機関は投資先への責任があるため、まず取り合ってくれません。また、100億円単位の債権が必要であることからも実現は難しいのです。一方、上場企業ならば実現可能なのですが、上場している競合2社は現状行っていません。債権流動化は煩雑でコストもかかるため、やる必要がないと考えているのでしょう。

マリコロ: だからこそ、唯一無二のポジショニングなのですね。中西社長が債権流動化に着目して実現されたのも、やはり上場後のことなのでしょうか。

中西: それが実は上場前なんです。本来なら不可能でしたが、奇跡的に実現できたのです。
上場準備をしていた2019年後半、主幹事証券会社を選ぶことになりました。40社ほどあった候補から2社まで絞りましたが、その時点で両者はほぼ同様の提案でした。それぞれの裏に銀行があるとわかっていたため、債権流動化してくれるほうを選ぶと伝えると、手を挙げたのが当時の主幹事証券会社。2021年の上場以降は他の金融機関からも希望をもらってスムーズに運んでいますが、そこまでは本当に苦労しましたね。

倒産危機を救ったのは「愛のある叱責」

マリコロ: 崖っぷちの奇跡ってあるんですね!中西社長のお人柄も決め手になったのでしょうね。今のお話も失敗や挫折などの塩(CEO)味経験のひとつだと思いますが、他にも苦労や挫折はございますか。

中西:2015年、債務超過寸前の状態に陥ったのが一番ですね。当時、私は本業である通信事業の未来に漠然とした不安を抱えていました。そこで、未経験のEC事業やエステ事業を始め、開発会社を買収し、複数の柱を持ちたいと考えました。しかし、ことごとく失敗。当時も本業は順調でしたが、その収益を他事業に注ぎ込むため、業績はみるみる悪化していったのです。

倒産も覚悟した頃、お世話になっていた地銀の役員の方から叱責を受けました。後にも先にもたった一度です。他の銀行が手を引き、交渉の余地すらなくなっていた最中、「本業以外の事業は最短でたたみなさい。ひとつに絞ると約束するなら3000万円融資する」と愛のある叱責でした。
約束を果たすべく、辞められる事業はすぐさま辞め、他事業の人材もすべて本業に集結すると、営業力が大きくなったことで問い合わせが増加し、さらにサポートも厚く提供できたため、結果としてサービスが充実したのです。お叱りを受けた際の約束を守ったからこそ、我々は上場できたのです。あれから9年経ちますが、現在も本業とその延長線上にある事業以外は行っていません。

マリコロ:コロナ禍以降とくに、本業がうまくいっていても複数の事業柱が必要なのではと不安を抱く経営者は多いですよね。中西社長の経験からアドバイスはございますか。

中西:そもそも、小さな企業はリソースが少なくて弱いのです。自分がやってきたからこそわかりますが、 事業や会社を分散するのは絶対にやめるべきです。どんな業界にも昔から事業を行う強者は必ず存在するなか、小さな企業が突然新事業を始めて簡単に成功するはずはないのです。判断基準としては、本業とのシナジーが重要ですね。

人の役に立つためには自分を磨くこと。今後は社会貢献していきたい

マリコロ: 今後の展望をどのようにお考えですか。

中西:当社にしかできないサービスをやっている自負はありますが、3年以内には半永久的に伸びるスパイラルに乗せたいと考えます。そのためには個々の能力を伸ばす社員教育が不可欠。しかし、自社のために教育するわけではありません。辞めないでくれるのが一番ですが、入社してくれた人材のスキルアップに助力することでどこへ行っても通用する力をつけてあげたい。ここには家族愛のような気持ちがあります。とはいえ、結果として会社全体が良くなって業績が伸び、いいことしかありませんよね。

マリコロ:中西社長からは社員の方々への強い、強い愛を感じますね。

中西:私は小学5年生で家族が離散し、寂しい思いもしてきましたから。26歳で起業したとき、何も持っていなかった私についてきてくれたメンバーを大切にしたいと感じました。顧客満足や社会貢献についてももちろん考えますが、やはり社員が一番かわいいのです。

マリコロ:採用したいのはどんな人でしょうか。

中西:優しさや思いやりを大事にする人にきてほしいと強く伝えています。でもそれはミスマッチを防ぐため。当社は家族経営で、それが社員にまで広がった「ワンマン経営」ならぬ「ワンワン経営」です。「犬」のように皆で群れていて、土日でも一緒にいるメンバーも多く、家族のような心の繋がりを大切にしています。だからこそプライベートにも立ち入り、そして困った時は絶対に助ける、そんな関係性が出来上がっています。

マリコロ:人生において「人」に対する優先度が高いのですね。

中西:「人の役に立つこと」が私の人生のテーマです。いつかやってくる死の瞬間、自分がどれだけ稼いだかではなく、どれだけ人の役に立てたかと考えるのではないでしょうか。先ほどの社員教育もそうですが、会社のためにスキルを上げて頑張れということでなく、社員一人ひとり、この子の役に立ちたいと思うのです。その上で先のお客様の役にも立ちたい。
さらに、60歳になる10年後にはビジネスをやめ、その後の20年間で社会貢献に取り組みたいと考えています。現在もフリースクールへの寄付や物資提供などを行っていますが、大部分はお金で解決し、時間はほぼ使えていません。社会貢献に多くの時間を費やせるなら、きっと結果を出すことができとても幸せなことだと感じるはずです。結果を出さねば、何事もやる意味がないですからね。

マリコロ: 最後に、若者に向けメッセージをいただけますか。

中西: やはり、人の役に立つために自分を磨くことです。何もしてない無力な自分では、人の役に立つのは難しい。勉強したり、ボランティアに参加したり、努力の方法はどのような目標や夢を持つかで異なると思いますが、何のために生まれてきたのかを考え、しっかり自分を磨いていってほしいですね。